タイのアジアゾウの現状について

今回のタイ・チェンマイの象旅行は、アジアゾウのタイ国内での扱いと

今後の取り組みについて、実際に見て現状を知りたいと思い 伺った旅でした。


というのも、タイに渡航する前、私はこちらの本を手にしました。

「タイの象は生き延びられるか」 著書:不二牧 駿 2005年4月 刊行

ご興味があれば、是非読んで頂きたいのですが、この本の内容を要約すると、

①タイでは象を昔から、(主にタイ北部で)林業で使役し 共存しつつ飼育してきました。

 国土の70%を占める森林からチーク材を切り出して、輸出品として利用されていました。

②ただ乱伐により森林が切り拓かれすぎたことを受けて水害も発生し

 1989年、ゾウを用いた木材の伐採がタイ全土で禁止されました。

③そのため仕事を失った象とマフート(象使いの意味での職種)は、都市であるバンコク等に

   象を連れていき、観光客に物乞いをすることが増えています。

④その結果、象と車との交通事故、交通渋滞、象の餌も十分になく栄養不良や餓死にも繋がっているとして、

  象にとっても 社会にとっても大きな問題となっています。


このような内容が記載されています。


これは以前 当方の記事でも紹介した日本の在来馬の歴史と近いものがあって、

日本では農業で馬耕や馬搬をおこなっていましたが、近代化が進むにつれて、農具やトラックにとって代わられた為、数を減らし 今や本土では木曽馬・野間馬を除きほぼ絶滅。離島に数種類が残るのみとなってしまっています。

タイのアジアゾウも同様に、かつては林業の仕事でなくてはならない存在でしたが、その林業が禁止となった為、ゾウと象使いは路頭に迷うことになってしまいます。


このままでは日本の固有種の馬達と同じように 絶滅の道を辿ってしまうのではないか、そう危惧した私は現地に飛んで タイの象が置かれている実状と 地元の方の考えを伺ってきました。


まず 第一に、アジアゾウに対する国民としての意識を3名の方に伺ってみました。

(統計的にはサンプルが少なすぎますし、チェンマイの中だけでのお話ですので、皆の総意とは言えませんが、是非 ご参考に頂ければと思います)


・ゾウは(タイ国民にとって)神聖な生き物で、また怖れも抱いています。(チェンマイのツアーガイド職 30代女性)

・ゾウはとても大切な存在です。神の使いとして敬っています。(チェンマイ 料理教室オーナー 40代男性)

これらの ご回答からゾウは、タイ国にとっては神聖的生き物で、普通の生物という枠から一線を画す存在と思われているようです。 また象の雄はマスト期という発情期(性ホルモンが大量分泌される時期)があり、その際は性格が狂暴になり 手が付けられなくなり🐘人をあやめてしまうこともあり、そういった点を踏まえて、畏怖の存在としても認識されているように感じました。


次に、ゾウは町中に出て物乞いをしますか?という質問をしました。

・かつては一部あったけれど、法律で制限され、今は町中で見ることはない。(ツアーガイド職 60代男性)

実際にチェンマイ市内をあちこちを廻りましたが、都市部には全く象はいませんし、遠方へ行く道端や田舎の方でも、飼われている象や、野生の象を見ることはありませんでした。(象との交通事故などもチェンマイ内では 御座いません)


それでは、ゾウは現状どのように管理されていますか?という質問に対しては、

・チェンマイでは、(前回ブログで紹介した)象に乗るツアーなど 観光で利用されています。

・また ケガをした飼い象や、人間に捨てられた象は 国営の "ランパーン タイ象保護センター"という場所で保護されています。 (同ツアーガイド職 60代男性)

つまり 行き場を失いかけていた象とマフート(象使い)達は、観光業という形で新たに活躍する場を見出しており、それでも飼いきれなくなってしまった象も 保護センターが受け皿となる仕組みが出来ているとのことです。


↓ランパーン タイ象保護センターの公式HPはこちら!


実際に ランパーン タイ象保護センター以外にも、民営でゾウの保護施設がたくさんあり、これらの場所でも多くの象達を野生に近い環境で 飼育されているようです💕

またコロナ禍で一時は観光客の方が減り、多くの保護区が象の維持費が難しい危機にあったそうですが、クラウドファンディングや地域の方々の協力で なんとかコロナを乗り越えて 今でも保護を続けていらっしゃるとのこと。

参考記事→コロナ禍でのタイの象たち!RKB海外戦略特派員現地レポート


総括致しますと、

・タイにおけるアジアゾウは、かつては林業に従事していましたが、今は観光業で利用されております。
・そして飼いきれない象も 保護施設で保護されており、なるべく野生に近い環境下で 象の福祉的な飼育が 各地でなされています。


今回の調査では まだ不十分な点も多い為、勿論 全ての象達を救うには至っていないと考えられますが、実際に多くの象が観光施設や保護施設で、適切な状態で飼育・管理されていて、マフート(象使い)の方と 信頼関係を結んでいることが、よく伝わってきました。

少なくとも、タイ政府は象の保護にお金を出して、国民の多くも無関心では無く、自国の大切な存在として、象を崇めて怖れて 愛していることを はっきり感じました。


私の知見では御座いますが、この象への想いが紡がれていく以上は、タイ国に住むアジアゾウ達は、きっとこれから先の未来にも 力強く生き延びてくれると 信じております。






<以下、蛇足です>

最後に観光業へ象を使役することについて、良く思われない方がいらっしゃるかもしれません。確かに、人を乗せて 山中を歩くという行為は 象に負荷をかけていることは事実ですし、観光客が増えてくれば、象が疲弊・怪我をする可能性もあります。

ただ、日本の乗馬においてもいえることですが、大型の動物は飼育するだけで 膨大な食費・維持 管理費がかかります。これらの費用を誰かが 象一生分を払い続けらてくれるなら良いですが、勿論そうはいきません。 


人間社会で象が共存していくためには、どうしても 象自身が 自分の食費を稼ぐ必要があるのです。(といっても人間側が 利益を求めて象を酷使することは勿論ダメですね)

本当は人と関わらず、野生で自然に過ごしてくれれば一番良いはずですが、一度飼い象として育てられてしまった以上、野生に還しても 餌を求めて 人の多い場所(里山)に出てしまい、農作物を荒らしたり 車と事故を起こしてしまう問題も起きてしまいます。


ですので 私達人間は、一度 象達を飼ってしまった以上は、野生に還さず、"責任を持って" 命尽きるまで、飼育しきらないといけないのです。


でも そうした「象に乗るツアー」等が 象にとって不幸か、と問われると私はそうでもないと感じました。

今回、エレファントホーム様で乗った象達は、人が自分の背に乗ることを微塵も嫌がっていませんでしたし、泥浴びや水遊びのときは、とても気持ちよさそうにしてくれていました。


「もっと泥をぬって💕」


 「水遊び 楽しいね✨」


そんな声が象さん達から 聞こえてくるようでした。

それに人を信頼していないと、無防備な脚を投げ出した姿を見せたり、その上で体を触らせてくれることも無いですよね。


象を観光の道具にしている!という批判の意見も 分かります。

しかし、象本人達が これだけ嬉しそうにして過ごして 私を迎え入れてくれたことも また事実です。

答えは一つではないと思いますが、これも象の命を守る為の立派な仕組みだと存じます。

是非皆様も タイにお越しの際は、観光と一緒に象さんに会いに行って、遊んでみてください♪

長文で失礼致しました。 日本よりタイの象に愛を込めて。

馬の未来に彩りを。

「乗馬クラブ クレイン大阪」様で乗馬修学中。 大阪在住の馬好き絵師です。 年間7000頭も生まれる競走馬達、その中で寿命を全うできるのは ほんの1%に過ぎません。 競馬を引退した馬、ケガや故障で養生が必要な馬、そんな子達を少しでも救いたいと思い筆をとりました。 私の描いた馬の絵から、一頭一頭の個性を愛してくださる方がいらっしゃれば、心より嬉しく思います。

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